loud voice

だからこれは音楽の物語だ。


世界に音は溢れている、だけど音は目に見えない。
オタマジャクシの連なった五線譜。そんなものは音の欠片じゃない。ライナーノーツをいくら読んでも、それは音そのものからは遙かに遠い。
多分、
きっと、
でも、
世界は今も叫んでる。一個の素粒子の気紛れによって生まれたときから、定められた滅びが訪れるその瞬間まで。片時も途絶えることなくリズムを奏で続けている。高層ビルの間を縫って、広大な砂漠を横断して、深い深海のそこから浮き上がってくる音。音。音。

 だけど、世界の叫びは僕の所まで届かない。きっと世界は広すぎる。きっと世界は遠すぎる。僕から遠く離れたお伽噺の事象。それはまるで、宇宙の果ての出来事か、光すらも逃げ出せないブラックホールの底の出来事のように。

ハレルヤ。

悪意が世界を蹂躙している。
目をぎゅっと閉じる。だけど音は消えない。だけど叫びは消えない。きっと祈りは消えない。
世界を想像する。
アーメン、神様。世界を回してるのはきっと貴方じゃない。けれど、それは多分人間ですらない。
だけど、僕は歌うのだろう。呪いの言葉で世界が滅びてしまうその前に。
音が溢れる、世界は最低だ。リズムを刻む、世界は最上だ。そして、僕にはもう音しか残っちゃいない。僕の耳に聞こえるのはたった一つのリズムだけ。
だから…そうだから僕は呟く用に歌うだろう、祈るようにビートを刻むだろう。
声を枯らして僕は歌う。僕は今日も生きている。