海の底からの祈り

朝起きると僕は世界の真理だった。


この世界の全てが鼻先にある本の中身みたいに理解出来る。一例を挙げようか?この宇宙には3000万の生命が存在する惑星があり、その中の3分の1には高度といって差し支えのない知的生命体が存在する。そのうちのいくつかは平均的に見て地球人類を超えた科学力を持っていて、お互いにコンタクトを持っている宇宙人も数は少ないが数種類存在する。ちなみに、火星には今も昔も火星人はいなかった。金星も同じだ。あんな灼熱の惑星に存在する生命なんて過去にも未来にも存在しない。
貴方はまだ僕のことを疑っているかもしれない、適当にほらを吹いてるだけの存在だと思うかもしれない。まあ、それも宜なるかな。別に僕だってどうしても信じてもらいたい訳じゃないんだ。だけど真実を伝えないのもそれはそれで気分の悪いものだ。だから、もうちょっとだけ付き合って欲しい。P≠NP予想は真だが、リーマン予想は偽だ、そして人類は今から三年後に滅亡する。
そう、人類は三年後に滅亡する。
貴方はまた「そんな事はない」なんて一笑に付して今日も満員電車に乗って愚痴を言いながら仕事に出かけるかもしれない。僕はそれを止めやしない。人には人の生活がある。個人には個人の事情がある。それは出来うる限り斟酌されるべきものだと僕だって分かっている。
だけど真理は揺るがない。何故ならばそれが真理ってものの持っている唯一の価値だから。
ノストラダムスの予言は惜しかった、地球の歴史から見たら10年程度の差なんて誤差だって僕は思うんだ。またある人は、「何でそんなことが起こるんだ」と僕を問い詰めるかもしれない。求めよ、さらば与えられん。だから僕は貴方に真実を教えよう。君たちに責任はないって事も。正確に言えば2年と350日と8時間と4分と9秒後の話だ。世界の3カ所で同時に地震が起こる。人類がこれまで体験したことの無いような大きな地震だ。世界中の陸地は津波に襲われ、そこで人類のほとんどが死に絶える。残されたごく僅かな人々も程なく死滅する。可哀想だとは思う、僕が悲しんでいないなんて思わないで欲しい。だから僕は全人類を悼む。せめてもの事をと祈る。願わくは、これからの三年間だけは世界中の人々が幸せであることを。例え、祈りが届かなかったとしても、それが僕に出来る唯一のことだから。

三年後。予定通り、人類は死滅した。僕は今日も海を泳いでいる。時々プランクトンを食べて、時々深海のそこに潜って世界について黙考する。滅んでしまった人類に対してしばしば黙祷を捧げる。僕は鯨、もういない誰かが名付けてくれたそれが僕の名前。
僕は今日も泳いでいる。