映画、ノルウェイの森感想 

映画版ノルウェイの森が面白かったのです。どのくらい面白かったかというと、長らく放置してたブログを再起動して感想をあげてしまうくらいに。

恒例の注意。以下の文章は、ノルウェイの森映画版小説版共にネタばれを含みます。それでも良い方のみ先へ。


前提として、もっかい映画館で見てもいいくらい面白かったです。この気持ちを共有できるあなたがそこにいればいいのだけれど。

漫画バクマンにて大場先生は言いました。デスノートはシリアスギャグであると。
まあまあ落ち着いてください。シリアスギャグを舐めてるのかと。ノルウェイの森見てからそんな事は言えと。
一言で言うならそんな映画。
開始三十分から何がツボにはいったのか、笑いをこらえるのに必死。多分、あの映画館で一番楽しんでたのは僕だと思う。

まずは褒めてみましょうか。キャスティングは秀逸。主演の松ケンはじめ、直子役の菊池凛子、緑役の水原希子はかなりレベルの高いはまり役。みんな演技もうまい。
物語後半の壊れた直子の描写は賛否両論あるでしょうが(僕はどちらかと言えば否定派)、ああいう解釈もありかなと。

しかし、しかしですよ。下手に上手い演技で村上作品の台詞を真面目に喋られるとあんなにも面白いのかと。まるで、劇中劇もしくは歌舞伎を見せられている気分でした。まあ、歌舞伎は見た事無いのでイメージなんですけど。直子とワタナベの草原のシーンでは笑いこらえるのにほんと必死でした。というか我慢出来ずに、ちょっと吹き出した。
しかも、ストーリー描写を放棄してポンポンすすんでいくものだから何が何やら分からない。えっちょっと待ってなんでこの人キレてるのやだなにそれ怖いって事が、まあ三回はあったかな。恐るべき事に。音楽の唐突さも結構レベル高い。良い音楽使ってるくせに。
一瞬一瞬の描写を見ると、なかなかにレベルも高く出来もいいのですけれど、全体を通した整合性は一切取れてないのな。多分脚本色んな人が部分ごとに書いたんだと思う、というかそうであって欲しい。まあ脚本は監督らしいんですけど。
結構長い映画の割に、尺が足りないので(というか原作二冊あるしね)大事なエピソードはポンポン削られてます。思いついたので、レイコさんの過去、突撃隊は申し訳程度に出てくるだけだし、胡瓜の描写も無い。というかそもそも看病シーンがない。緑の家に行く所で、雨が降ってるからおかしいなーと思ったら火事の描写もありませんでした。
驚くべき事に、レイコさんと二人の御葬式もない。というかレイコさんは全体的に不遇過ぎる。凡百の脚本家ならあそこをメインに持ってくると思うんですがね。
あ、最後の旅シーンも微妙にしかありませんでした。
しかし、しかしながらトータルで見てみるとなかなか空気感みたいなのは奇麗に出てると思うんですよね、単体映画としてみても決して悪く無い、というかむしろいい。

さて、褒めすぎたきらいがありますが、ここからは明確なdis。
レイコさん描写はいくらなんでも酷い。あれなら削って、緑に二役持たせた方がよかったんではないかと。
緑と会う場所もね〜学食と言うのは頂けない。なんか落ち着いた茶店持ってこいよと、これは趣味の問題かもしれないけれども。
永沢さんの描写も少ない。これは尺の関係上しかたないとこかもしれないんですけれど、ワタナベがどんどん追いつめられていく余韻みたいなのを出したいなら描くべきだと思うんですけどね。唐突にキレるハツミさんは面白かったですよ。
ストーリー的には忠実に最初から最後まですすむんですが、その分削られてる部分は多かったです。神は細部に宿るといいますが、村上作品の魅力は枝葉末節に宿るっぽいので、そこを削られると正直辛い。
あと、凛子全然エロくないのな。他を全部許容しても、これだけはほんとに頂けなかった。

まあ、色々言いましたが、最初に書いた通りもう一度見てもいいくらいには面白い。と言う訳で、皆様も是非劇場に足をお運び下さい。そして、感想を共有しましょう。

最後に、小説というかノルウェイの森という物語についての感想ですが、僕は好きではありません。なぜなら、選びとった物語ではなく、選ばされた物語だから。そう言う意味では、風の唄を聞けから始まり、ダンス・ダンス・ダンスに収束する羊シリーズが一番好きです。
あれが、村上作品のベストだと思う。

あらゆるものは通りすぎる。誰にもそれを捉えることはできない。
僕たちはそんな風にして生きている。